翻訳プロジェクトには少々問題児がいる、ということも書いたりもしたけれど、今日はとても気持ちが良く、勉強にもなる出来事が。
そもそもが5ヶ月も気付いてあげられなかったので申し訳なかったんだけれど、どうやら「ワタシが訳したらしい」箇所で「悩ましい訳」があったようで、質問の形でコメントが入っていた。
原文はこれ:
これに対してワタシ(? たぶん)はこんな訳を入れてたらしい:
これに対する質問というかコメント:
でこうされていた(る):
ワタシがこれを読んで何を思ったかはコメントあげた当人に送ったメッセージですべて言ってる:
~さんも既に5ヶ月前のことなので忘却してる可能性が高いので引用しておきます:
> ~ さん、こんにちは。ドキュメントを読んでいて、「取り外し容易な置き換え」という文がよくわからず、こちらのソースに辿り着きました。私なりの解釈に基づいて翻訳し直したのですが、drop-inを「取り外し容易な」と訳された理由がございましたら、お教えください。
2つ可能性があって。
一つには「drop-in」の一般的なニュアンスをそのまま訳したのかな、という気はします。なんとなくワタシの訳出のクセは出ている気はします。このようなケースは結構多いかもしれません。一時期結構大量に翻訳していたこともあって、勢いあまって、というのはあるかもしれないです。ちょっとどっちかは定かじゃないです(というか履歴追っかければわかりますが、その気力はないので)。
もう一つは、この頃のワタシは「2.7 翻訳の Transifex 化」を中心に作業していたことに関係します。もともと 2.7 では Transifex は採用しておらず、rst に直接翻訳を埋め込んでいました。この元々の rst から手作業で抽出して Transifex に放り込んでいって、今の 2.7 Transifex になっています。つまり、私がそこで間違いを見つけなかった限りは、もとの rst の訳(つまり私が訳したのではない)ものが流れ込んでいる可能性があります。これが 2.7 だけで済めばまぁいいのですが、3.x での未訳部分には、翻訳バッファを共有しているのでそのまま採用されるのですね。ひょっとしたらそれかもしれないです。
という「私的ヒストリ」の話はともかくとして。たとえば http://ejje.weblio.jp/sentence/content/drop-in 。「容易」はともかくとして(←これは確かに誤訳と思う)、「差し込む」(「落とし込む」)つまり「プラグイン」と近いニュアンスをもともと持っています。drop-in は。ので私が訳したのだとすれば、訳としては普通に辞書的にありえる訳出をしてるとは思います。うーん、でもおかしいな、やっぱり。largely は確かになんか誤訳っぽいし。ただし…、「短期間の」訳に賛同できているわけではありません。辻褄合ってます? 私の英語力も危ういのですが、ここは「(不足分を補いつつ)丸ごと置換出来る」という「役割」(というか貢献)について言っているはずで、「歴史的には腰掛で登場した」ということを言っているのではないのでは?
すいません、なんかいまひとつ確定的なことが言えないのですが、修正された訳出ももやもやします。
思ったことはこのまんまである。つまり「えー? 確かにアタシ(?)の訳はヘンな気がするが、直された訳出も違うんじゃないか?」てこと。これへの回答が大変気持ちが良く、また、こっちも勉強になった:
英日翻訳では、よく「差し込む」「プラグイン」に近い意味で使われているのですね。Weblioの例文検索は誰が訳したものかわからないと思ってほとんど使わないので、知りませんでした。
逆に私は、http://ejje.weblio.jp/content/drop-in の日本語訳と http://www.thefreedictionary.com/drop-in でしか調べておらず、thefreedictionary の唯一の説明を盲目的に当てはめてしまっていました。
今Weblioの同じページ http://ejje.weblio.jp/content/drop-in を見たところ、Wiktionary英語版の “fit to substitute some element in a complex system without changes to the existing infrastructure” という説明が非常にしっくりきました。
結論として、~ さんが『「(不足分を補いつつ)丸ごと置換出来る」という「役割」(というか貢献)について言っているはずで、「歴史的には腰掛で登場した」ということを言っているのではないのでは?』とおっしゃる通りだと思います。
ということで、
原文: `setuptools`_ is a (largely) drop-in replacement for :mod:`distutils` first published in 2004.
訳文: `setuptools`_ は :mod:`distutils` (の大部分)をそのまま置き換える後継プロジェクトで、2004 年に最初に公開されました。
→解釈: setuptoolsの登場によって、distutilsの生態系の一部は変わってしまうけれど、ほとんどは維持される。
という訳文・解釈でいかがでしょうか?
ご意見があれば、ぜひお知らせください。情報共有のため、元のコメントの場所にも、ご相談して決まったことを残しておこうと思います。
いただいたご説明で、「取り外し容易な置き換え」と訳された背景がよくわかりました。ありがとうございます。
「辞書で最初に出てくる訳語を盲目的に使ってはいけない」という初歩的なルールを守っていなかったので、反省しています。
ちなみにワタシも「Weblioの例文検索」での訳文は別にあてにしてない。Linguee と同じ用途だね。ワタシと違うスタイルだなぁ、と「感心」したのが http://www.thefreedictionary.com/ (英英辞書である) を読んでる点。ほぉ。そうか、私も真似しようかな。Wiktionary英語版の説明にもワタシは気付いてなかったし。
正直ワタシの訳はあんまし「辞書的」ではなくて、例によってどちらかといえば「原義」(落として-入れる)至上主義的な思考がまずあって、なおかつ IT の文脈での drop-in 用法を「知ってた」てことだけなのね。だからこそ「短期間の、はたぶん確実に違うに違いない」と反応出来ただけ。つまりあんまし武器を持ってなかった。逆にワタシの「説」が完全な形で補強されて返ってきたのでまず驚いてしまいました、のね。
いいねぇ。こういう人たちばっかならいいのに。