argument あれこれ

翻訳で困るシチュエーションなんか事欠かなくて、の一例。

    • polar converts a complex number to polar form, returning the modulus and argument of the complex number.
    • polar は複素数を極形式 (polar form) に変換し、複素数の絶対値 (modulus) と偏角 (argument) を返します。
    • rect does the opposite, turning a modulus, argument pair back into the corresponding complex number.
    • rect はその逆で、絶対値と偏角から対応する複素数に戻します。
    • phase returns the argument (also called the angle) of a complex number.
    • phase は複素数の偏角 (angle とも呼ばれています) を返します。
    • isnan returns True if either the real or imaginary part of its argument is a NaN.
    • isnan はその引数の実数部か虚数部のどちらかが NaN であれば真を返します。
    • isinf returns True if either the real or imaginary part of its argument is infinite.
    • isinf はその引数の実数部か虚数部のどちらかが無限大であれば真を返します。

言ってる意味通じる? 「argument」の訳出に注目。最後の2つは言われてみれば確かに引数。けど前の方は数学用語としての偏角。ほんとにこの位置関係なんだよ。遠く離れた場所に書かれてる記述じゃなく。いつも思うんだけど、欧米人はこんなに語が役割過多で、疲れないんだろうか? (日本語には日本語の問題はあるけどさ。)

数学とプログラミング言語両方に関係している上に英語が「至極一般的」なものな場合で、なおかつ「技術語として和訳が固定しちゃってるもの」、という条件全てに合致すると一番困る。だいたいにして「specifier」だってほんとは「指示子」なんて言わずに「指定er」とか「指示野郎」としたろか、と思うこと毎日。複数形もそう。訳でどうしても複数形を表現したいことが多いんだけど、日本語は複数形表現しずらいんでほんと困る。

「argument」は原義としては、名詞なら「議論」とか「テーマ」とかそんな。つまりは「語るべき興味の対象」を指すんだろうね。当たり前だけど Python ドキュメント内でも「議論が巻き起こりました」的にエピソードを語る文脈があって、それは「argument=引数」では無論ありませぬ。

複素数の極形式の場合だと、本来は「argument=偏角」ではないはず。英文で「also called the angle」と補足してある通りで、日本での訳語「偏角」は当然 the angle にあてたものでしょう。だから上記の翻訳も困ったんだよね。「angument=?」の?部分を何か訳語をあてておかないと、「とも呼ばれています」の意味がわからない。元の argument, modulus って、たぶん「本題とオマケ」に近いニュアンスだったんだと思う。極形式の絶対値は複素数値の「一意性」(直交しない) に関係ない部分だから。(まさに argument だけで argument 出来る。極形式では。)