「色彩効果を利用して体温を調節する」?

突風、竜巻、台風、集中豪雨、土砂崩れ、堤防決壊、そして今日の地震。そりゃ東京防災熟読しますって。

最初に言っておくけれど、体温調節したければ、まずは「新聞紙で暖をとる」とかそっちの「基本」の方を主で憶えた方がいいよ。それって、ワタシなんかは登山をやってたんで「遭難に対する備え」として常識的に理解してるんで、ワタシの興味からは外れてるだけ。

気になったのはここ(P192):

効果については何の疑いも持ってないよ。色・言葉が脳に働きかけ、身体にまで影響を及ぼすことは脳科学的にも明らかになってきてるし「思考のトラップ 脳があなたをダマす48のやり方」でもたとえば「身体化された認知」を説明してる。かくも人間の脳は騙されやすいのだ、ということ。人の体感温度までも変化させるほどに。

そして「だからこそ」。

随分前にテレビ番組で怖ろしい話が紹介されてたことがあって。「色彩心理学」に興味を持つようになったのはその番組がきっかけだったんだけれど、なんの番組かは忘れた。10年以上前のような気もする。

どんな内容だったか。

刑務所の話。ある色彩心理学の知見に基いて、刑務所の壁の色をピンクに塗ったところ、受刑者の精神が安定し、凶暴性を抑えることに成功した、とのこと。素晴らしいじゃないか。

ところが話はこれだけでは終わらなかった。

「素晴らしいじゃないか」。とある刑務所でも、これに倣って壁の色をピンクに塗った。結果は悲惨なもの。受刑者が次々と暴れ出した。凶暴性をむしろ増してしまったのだという。

その番組がどんな結論で締めくくっていたかは憶えてない。確か微妙に色が違ったがために、かえって凶暴性を増したのだ、とかそんなことだったかと思う。ただ少なくともワタシは、「色彩」が人に与える影響というのはとても大きなものだが、危険なものでさえあるのだ、と、そのとき衝撃を受けた。

色については、とても気を遣う人とそうでない人ってはっきり分かれるよねぇ。ワタシはまぁ後者ではあるんだけど、単にズボラなだけ、ということでもある。ただ気を遣う人にとっても遣わない人にとっても、「脳科学的な」あるいは「心理学的な」見地でもって理解する人はそんなには多くないわけで、ということはつまり「色彩ごときにそれほどまでの力がある」とは、ほとんどの人が気付いてない、ってことでもあるんだよね。

たまたま古本屋でカラーセラピーの本(タイトルもそのまんま)とカラーコーディネーターの本をみかけて、思わず買ってしまったんだけど、その中には「周囲を赤で囲まれると血圧が上がり、アドレナリンの分泌が高まる」「青は安らぎの色で、冷却・鎮静効果がある」と書いてある。「色彩効果を利用して体温を調節する」に繋がる、よね。

けれども一方で同じ本で「赤を身につけたり周囲に多用したりすると、怒りが爆発したり攻撃的になることもある」とも言うし、「思考のトラップ 脳があなたをダマす48のやり方」で説明している「身体化された認知」が言うのはたとえば「青の服を着ている人は冷たい人にみえる」、といったこと。

で最初の話に戻るんだけど。

これさ、「避難生活」時の話をしてるわけね。これは単独での避難よりは集合避難所での生活を念頭に置いてるはず、でしょ? ということはつまり、ここにいる人々は、最悪の場合には極限の精神状態にあってもおかしくない。そんなときに、誤った色彩を選んでしまったとしたら…?

「あったかく感じる」「涼しく感じる」で済んでるうちはいいけれど、集団生活が壊れてしまいかねない、てことには、ならないのかな?

「たったそれだけのことで体感温度が変わる」という知識を持つことは必要ではあるけれど、これを安直にこういった特殊な状況向けに推奨したらダメなんじゃないのかなぁ、と。おそらくこれ、実証実験で成果が出た色彩を具体的に書くくらいしないと、かえって危険と思う。というかね、そういう特殊な条件を考慮する場合、「暖かい」「涼しい」だけを観点に考えずに、もっと「精神」に寄り添った説明をした方がいいと思うのね。そうしないとほんとに「いい人が気を利かせて、全員のパーティションを真っ赤に統一する」ことが起こるでしょう? だって「東京防災に書いてある」。「いい人」の破壊力というのは怖ろしいのだ。